もしもルイの悲願・後編


ワセ
「これでいいんだよな?」

『もちろん・・。・・・全ては貴方達の名の通りになるわ。
そのためにはどうしても。この子には死んで貰わないといけなかった。』





・・・・。

・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



ディバン
「やられたな、風呂場で居なくなるとは想定外だ。」

ディバンがトレジャーハントで使うと思われる謎の金属棒を手に取って我が家の風呂場を調査している。

琶月
「えーっと、これ今何やっているんですか?」
キュピル
「風呂場に抜け道がないか調べて貰っている。家の構造の問題で我が家の風呂場には窓はなければ換気扇もない。
だから外に出るならこの扉を通る以外道はないんだが・・・。」
琶月
「窓もなければ換気扇もない・・・何か・・あれですよね・・。」
キュピル
「湯気の逃げ道がないから冬に長風呂するとスチームサウナみたいな事になる。」

ディバン
「そいつは悪くなさそうだが、これからは換気扇尽きの風呂になるな。」
キュピル
「どういうことだ?」

ディバンが金属棒をゴンと天井にぶつけると、一瞬で長さ1m程の正方形の穴が出来た。

キュピル
「換気扇にしてはちょっとでかすぎるな。」
ディバン
「この家の管が丸見えだな。」
キュピル
「・・・流してしまいそうになったが、つまりえーっとこれはどういうことだ・・・?」
ディバン
「抜け道だ。魔法で隠してたってことだ。効力が切れて一瞬で天井が消えたように見える。」
キュピル
「ルイとワセとシア、そしてキューはこの穴から外に出たと考えられるか?」
ディバン
「さあな、俺は探偵じゃない。洞察力の鋭いお前の出番なんじゃないのか?」

ディバンがしゃがみ、肩に乗れと手を叩く。
意図を察知しキュピルがディバンの肩に乗ると、ディバンが立ち上がりキュピルを天井裏へと押し上げて行った。
天井裏へよじ登ったが、そこは電線や何に使われているか分らない管などが張り巡らされており這ってしか進めない。

キュピル
「子供三人はともかく、ここを俺やルイが通るのはかなりキツイな。」

・・・まだ目的が分らない。
キューに言われた通り今日一日ワセとシアを監視し続けた結果、確かに怪しいそぶりは見えた。・・というか、今日言われなくても気付いただろう。
そして風呂場での突然の消失。ワセとシアが一連の発端者として考えられるので消える理由は分るが・・。

キュピル
「(何でルイまで消えた。)」

何を考えているんだ・・・?
天井裏を這って適当に進み続けると、壁の一部分に青い渦巻き模様を描いた謎の光がある事に気がついた。

キュピル
「何だこれ?」

触れるかどうか迷ったが、意を決して触れてみると突然体が渦巻き模様を描いた謎の光に吸い込まれた。
唐突の出来事に瞬きし目を開けた時にはもう違う場所にいた。

キュピル
「何だ・・・今のは?」

身体に異常がないことを確かめ、武器が消えていないことも確認する。
どうやら単純に何処かへテレポートしたようだが・・・。
ナルビクで普段利用しているワープポイントとはまた違うワープに感じられた。

キュピル
「さて、ここはどこだ・・・?」

辺りを見回すと囁きの海岸に似ている地形だというのがすぐ分かった。
後ろには広大に広がる海があり、陸地には熱帯雨林が生い茂っている。
ギラギラと太陽が夏のように輝いており、あまりの暑さにすぐに黒いコートを脱いだ。気温も真夏のように暑い。
そして何よりも特徴的なのは、今目の前に一つの大きな小屋があるということだ。
その小屋の入り口には一本のパラソルとビーチベンチが立っており、誰かがビーチベンチの上で寝ている。
砂浜に足跡を残しながら小屋へ近づく。

キュピルが小屋へ近づいている事に気がついたのが、ビーチベンチで寝ていた人が起き上がる。
砂浜の上に置いていた一つのアクセサリーを手に取り水色の髪へ結び付ける。

キュピル
「・・・魂の形をした髪飾りか。」
??
「・・・あら、おかえりなさい。予想外の人が帰って来ちゃったわね。」

大分老けてはいるがキュピルには誰だかすぐ分った。

キュピル
「ルイ、夢心地はよかったか?」
ルイ
「・・・そうね、悪夢ではなさそう。」
キュピル
「・・・・ワセとシアはここにいるのか?」
ルイ
「幸せはここよ。」
キュピル
「・・・・幸せはここ?」
ルイ
「そう。・・・本当はもう気付いていたんじゃないかしら?あの子達の名前の意味に。」
キュピル
「ワセとシア。・・・まぁ、そうだな・・。シア、そしてワセの順番に名前を呼べば『シア』『ワセ』。・・・幸せになるからな。
シアとワセはここにいる。だから幸せはここって言ったのか?」
ルイ
「うーん、ちょっと違うわね。確かにあの子達も今後ろの小屋で今一休みしているけど私とキュピルさんの幸せもここにあるってことよ。」
キュピル
「俺とルイの幸せもここにある?」
ルイ
「そう。」

ルイがビーチベンチから起き上がる。
いつもの服装を見に纏っているように見えたが、何故か少し色褪せたように見える。
キュピルを追い越し、海へ近づく。

キュピル
「ルイ?」
ルイ
「キュピルさん。蝶の木の前で私がキュピルさんに言った言葉を覚えているでしょうか?」

・・・蝶の木の前でルイに言われた言葉。
忘れるはずがない。

ルイ
「私はキュピルさんの事が好きです。あの時、キュピルさんに告白してから今に至るまでずっと。キュピルさんの事が大好きでした。今でも愛しています。」
キュピル
「・・・・・・。」
ルイ
「あの時は助け出さなければいけない婚約者が居るって言われてショックを受けましたけど・・・。
不思議なものですね。その婚約者ってまさか幼い頃の私だったなんて。
・・・ルイという名前を授かる前の記憶が一切無かったものですから、こんな所でまた私とキュピルさんが繋がっていたと知った時は嬉しくて泣きました。」

海へ向かって歩き続けながら喋るルイ。海水が足首の所まで浸かると、そこで進むのをやめた。
キュピルはルイの背中を見ながら話しをじっと聞いている。

ルイ
「・・・でも、何故でしょうか。・・・全て事を終えて・・・やっとキュピルさんと向き合う時間が取れたと思っていたのに。
・・・全然向き合う事が出来ませんでしたね。」
キュピル
「ルイ。」
ルイ
「・・・好きですよ、その意味の籠った呼び方。」

ルイが両手を繋ぎ合わせ祈る仕草をする。

ルイ
「もしかしてキュピルさん。私と二人きりになるのが恥ずかしかったのですか?
それとも私の事が嫌いだったのですか?」
キュピル
「そう言う訳じゃ・・。」
ルイ
「いいんです。」

キュピルの話しを遮るように大きな声で言った。

ルイ
「どういう理由があれ、結局私とキュピルさんは最後の最後まで・・結び付く事はなかったんです。
私の知らない誰かと結ばれて二人の間に出来た子供、キューが産まれました。」
キュピル
「・・・・・・。」
ルイ
「・・・正直羨ましかったです。憎いぐらいに。あの時は平静を装っていましたけど本当は立ち直れないぐらい大きなショックを受けていました。
・・・一日だけじゃなく、キュピルさんとキューが二人で仲良く、楽しそうにしている所を見る度に・・・。」

ルイが祈る仕草を止め、キュピルの方へ向き直る。

ルイ
「でも、ご存知の通り私はちょっとやそっとのことじゃ諦めきれない人です。
キュピルさんと結ばれるためにあらゆる努力をしてみました。」

老けたルイが海面の無い砂浜へと移動する。

ルイ
「ファンさんの協力を得て色々試行錯誤してみました。キュピルさんとデートしたり旅行しに行ったり。
でも、その先に行こうとするとキュピルさんは何故か一歩身を引きましたね。記憶はありませんけど幼い頃、私とキュピルさんは
婚約を結んだ・・・はずでしたよね。・・・どうしてなんでしょうね。」

ルイが一度屈み、左手で乾いた砂を握る。
拳の隙間から砂が漏れだしている。

ルイ
「どんなに迫っても、こんなにも迫っても。この砂のように僅かな隙間からキュピルさんは逃げ・・・。その後・・・・。
・・・・・ふふっ、これ以上言っちゃうと大変な事になるから言いません。」
キュピル
「大変な事?」
ルイ
「そう。とっても大変な事。」
キュピル
「・・・殺人事件でも起こしてないよな?」
ルイ
「そんな事はしていませんから安心してください。・・・作者が襲いかかってきた。・・・もうこれでいいですよね?」

キュピルの顔つきが険しくなった。
その表情は苦難の顔というよりは来るべき戦いに備えようといった顔つきだった。

ルイ
「作者が襲いかかってきた後はもう私も戦いに必死でしたね。キュピルさんとまたデートに行こうだなんて、
そんな事はとてもじゃないですが言える状況じゃありませんでした。
・・・そしてある時。キュピルさんは作者と共に消えて居なくなりました。」
キュピル
「・・・・・。」
ルイ
「私は結局キュピルさんと結ばれる事はありませんでした。」

・・・・。

10秒ほどの沈黙が過ぎた後、ルイがもう一度キュピルに向けて喋り始めた。
今度は悲しそうな表情をし、目線を斜め下へと逸らす。

ルイ
「・・・そんな結末、私は嫌でしたから・・・。・・・どうにか未来を変えさせようと思って。」
キュピル
「変えさせようと思ってワセとシアを送りこんだ・・・っということか?」
ルイ
「それがちょっと違うんですよね。」

ルイが苦笑する。

ルイ
「私は結局現実逃避したんです。」
キュピル
「・・・現実逃避?」
ルイ
「はい。よくよく考えてください。キュピルさんが消えてしまった後私は一度もキュピルさんに会えていないんです。
それじゃ今キュピルさんの後ろに居るあの二人の子供は誰だと思いますか?」

キュピルが後ろを振り返る。
ワセとシア・・・そして現代のルイが楽しそうに追いかけっこしている。
・・・こっちには何故か気付いていない。

キュピル
「・・・本当は俺の子供・・ではなかったりするのか?」
ルイ
「いえ、確かにキュピルさんの子供ですよ。」

キュピルが悩むそぶりを見せる。

ルイ
「ふふ、難しいですよね。答えを言うと・・・。私自身がもう一度過去の世界に戻ったのです。」
キュピル
「・・・なるほど、そういう手があったか。どうにも未来は便利すぎる道具が多すぎて話しの流れが分りづらいな。
それで過去に戻ってもう一度やり直した・・・のか?」
ルイ
「でも今の私とキュピルさんは初対面のはずですよね?キュピルさんの知っている私は今後ろで幸せそうに遊んでいるもう一人の私の方ですよね?」

現代のルイがキュピルに気付く。

現代のルイ
「あ、キュピルさーん!一緒に遊びませんかー?」

満面の笑顔で言った後、手を振る。キュピルの返答が返ってくる前にシアに背中を叩かれ再び追いかけはじめた。

キュピル
「・・・なら・・・一体何を?」
ルイ
「キュピルさん。平行線・・・パラレルワールドっという言葉はご存知でしょうか?」
キュピル
「パラレルワールド?」
ルイ
「そうです。同じ世界、同じ人、全て同じ舞台。だけどあの時・・・。『もしも』こうなっていたら世界はどうなっていたか?
世の中にはそんな面白い技術があるんですよ。」
キュピル
「・・・これまでの出来事を全て『もしも』ああだったら、『もしも』こうだったらっと考えていたらきりがない。」

ルイがクスッと笑う。

ルイ
「キュピルさんらしいですね。」
キュピル
「・・・・まさか・・・。」
ルイ
「そう。・・・ここはもう一つの世界。もしも作者が襲ってくる前までに私とキュピルさんが結ばれて居たらどうなっていたか?」
キュピル
「・・・・・どうなっていたんだ?」
ルイ
「ご覧の通りですよ。私は幸せです。」

ルイがにこっと笑う。
・・・その笑顔にキュピルは何度も救われているが、歳老いたその顔でも何処か安心させてくれる笑顔・・・。

ルイ
「・・・・でも。これは『もしも』の話し。・・・現実に起きた出来事じゃありません。」
キュピル
「・・・どこからがもしもで・・・何処からが本当の話しなんだ・・・?」

キュピルが理解出来なさそうな表情を見せる。

ルイ
「それは未来のファンさんに聞いてください。『もしも』を具現化させたのは未来のファンさんの力ですから。」
キュピル
「・・・・・・。シアとワセが今俺が住む現代に送り込んできたのは一体・・・。」
ルイ
「あぁ・・・・それは・・・・。」

ルイが振り返り、楽しそうに遊んでいる現代のルイを指差す。

ルイ
「・・・今、私が話してきた全ては昔の私が今考えている事・・・感じ取っている事です。・・・可哀相だとは思いませんか?」
キュピル
「・・・・・・ああ・・素直に・・・少し可哀相だ。」
ルイ
「ここは『もしも』の世界。・・・『もしもルイの悲願』が叶ったら・・・。私はとっーーーーっても・・・。幸せになります」

またしても満面の笑顔を見せる。

ルイ
「・・・私はちょっと自分に対してお手伝いしただけです。ここは『もしも』の世界ですから。いずれ消えてなくなります。」
キュピル
「そうなのか?」
ルイ
「はい。理屈はよく知りませんけれど・・・。」

ルイが顔を下に向ける。

ルイ
「・・・・・。キュピルさん。・・・・私は仮想空間の中ででしか幸せを手にしていません。
・・・今の私はもういいです。・・・・ですが・・・一つだけお願いを聞いてほしい事があります。」

突如キュピルの背中に誰かがぶつかってきた。
キューだった。・・・何故か血まみれだ。

キュー
「おとーさん!その話しに耳を貸すなーーーーー!!!」
キュピル
「キュー!その怪我はどうした!?」
キュー
「『もしもルイの悲願』が叶ったらアタシは産まれてこなくなって死んじゃうんだぞーー!」

駄々っ子パンチをキュピルに浴びせる。しかしルイはそんな事はお構いなく話しを続ける。

ルイ
「キュピルさん。・・・昔の私のために・・・・・・。・・・昔の私を幸せにしてあげたいと思うなら・・・・。」







・・・どうか・・・・。





















貴方のとても大切な人にプロポーズを・・・・



































ルイ
「あっ・・・・・。」


目が覚める。
・・・・酷く疲れる夢を見ていた気がする。
まだ寝ぼけているのか視界が若干霞んでいる。

時刻は午前六時。

ルイ
「・・・そろそろ起きないと・・。」

何故か重たい体を持ち上げてベッドから起き上がる。
パジャマから私服へ着替え部屋から出る。

部屋から出てリビングに出ると珍しい事にキュピルがもう起きていた。

ルイ
「あら、おはようございます。今日は珍しく早起k・・・・。」















・・・・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。






ジェスター
「おはよー!おはようーー!!」

ジェスターが部屋から元気よく飛び出してきた。

ジェスター
「・・・ん〜?ルイとキュピル。二人とも顔赤いけど何かあったの〜?」
キュピル
「な、な、な、なんでもない。」
ルイ
「な、な、な、なんでもありませんよ!!!」
ジェスター
「・・・・じぃー・・・。あー!!二人とも何か隠し事してるー!!わああああああああああ!!!
ねー!キュー!!起きてるー?キュー!!この二人何か隠し事・・・・。
・・・・・あれ・・・・?キューって誰だっけ?」
ファン
「朝から五月蠅いですよ!ジェスターさん!」
ジェスター
「あー!ファン!聞いてよ!この二人何か隠し事してたんだよ!早くキューにも言わないとー!
・・・・あれ?だからキューって誰だっけ?」
ファン
「キューさん?キューさんって・・・・。・・・・おや、おかしいですね。僕も物忘れしてしまいました。
まるでキュピルさんの子供みたいな名前ですけど・・・。」



そしてクエストショップで働く者が住むある一室では、誰も住んでいないはずなのについ昨日まで誰かが住んでいた跡があった。

名札には キュー と書かれていたが誰もその名は覚えていない。









『もしもルイの悲願』が叶ったら  END 




追伸

反省はしている。これは酷い。
次はもっと楽しいの考えます。



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